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「一体どんな問題があるんですか?」
売る側はプラス面だけでなく、ちゃんとマイナスの面も客に知らせる義務があるだろう。
客が聞いてきたなら尚更。
こんないいおじさん、と言うのはぱっと見での判断だけど、聞けばすんなり教えてくれると思う。
そんな私の予想通り、おじさんは言い淀むようなこともなく扇子を動かしながらのそのそ歩き出した。
「ああ、それがですねえ…………ほら、これなんですよ」
そして立ち止まり、抹茶色の扇子をパシッと閉じて、それでコツンとあるものを叩いた。
おじさんの後ろからそれの前に移動して、その問題のブツとやらを上から下までジーッと凝視してみる。
数十秒後、私が導き出した結論は、
「……扉ですね」
「その通りです。扉なんですね」
なんですじゃなくてですね。
おじさんが指したのは何の変哲もない一つの扉だった。
形は長方形で、色は茶。ノブもついている。穴や傷は無い。
一体何が問題だと言うんだろう。
「普通の扉、ですよね」
おじさんはウンウンと頷いた後で、指を一本立てる代わりに扇子を立てた。
「お客さん、お忘れですか?
この物件は1LDKですよ」
それくらいは覚えてますとも。
改まって何を言うかと思ったらそんな分かりきったことを。
この暑さでとうとう頭がやられてしまったのかと心配しつつ、おじさんに返事をした。
「分かってますよ!
リビングダイニングキッチン、それとあそこに一部屋で1L…………え?」
私が最後に指差したのは後方にある茶色い扉。
さっき覗いた洋室に繋がる扉だ。
……じゃあ、目の前のこの扉は何?
「……第二のトイレ?」
「この広さでトイレ二つも欲しいですか?」
「……ですよね」
言われてみれば不自然な場所にあるこの扉。
あまりに堂々と存在しているものだから逆に気にならなかった。
あるはずのない二つ目の扉。
まるで座敷わらしによってクラスメイトが一人多い!?みたいなこの状況。
これがただのだまし絵とか、収納スペースとかだったらよかったのに、おじさんの口から出たのは、有り得なさ過ぎて思考から除外した、最も可能性の高い事実だった。
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