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「つまりはあれです。 この扉はお隣りの605号室さんとつながってしまってるんですよ!」 ……このおじさん、何と言うことをなんて楽しそうに話すんだ。 笑いながら再び扇子を広げて扇ぎはじめる横で、目の前の扉をポカンと見つめてみた。 見れば見るほど何の変哲もない扉。 でもこれを開けば見ず知らずの他人様の私生活が丸見えで、更に私のプライベートも晒すハメになる。 ああ、プライバシーなんてどこへやら。 「……有り得ないでしょ。 一体何のために……」 「単なる設計ミスだって噂ですよ」 いやいや、設計でミスったとしても、製作途中で誰かしら気付いて指摘するでしょう! あえて残したとか?必要性が無いです。 はたまた製作者の皆さんが凄まじい天然だったのか。 「……じゃあ鍵閉めちゃえば問題無いですよね」 あっさりひらめいた。 開かなければただの壁として機能してくれる。問題万事解決! 「いやー、でも鍵付いてないみたいですよ?」 「付ければいいじゃないですか」 「そうなると多分経費はお客さんもちになると思いますけど」 「……えっ!?何で!!?」 私には何の非も無いのに!ミスしたのは作った人達でしょう! 迷惑被ってるこちら側がお金を払うなんておかしな話……だと私は思うのだけど、おじさんったら他人事みたいに扇子で風を起こして、やや寂しい髪の林を揺らして笑う。 ……まあ他人事なんだけど。 「まあ気持ちはかゆいくらい分かりますけどねえ」 際どいですよ。 「こちらはこの欠陥を踏まえてあのぶっ飛んだ安値を付けさせていただいているわけなんでー。 鍵をこちらが付ければ問題も今より軽減しますから、お値段は少々上がることになりますよ?」 その最もらしい文句を前に応戦できるほど、私の口は達者ではない。 ぐうの音も出なかった。 「まあこんな特殊な物件にしなくても、他にもご紹介したものもありますし、無理にここに決めることはありませんよ」 言われてみればそうだった。 すでに自分の中で他の選択肢は切り捨てられていたみたい。 だって本当に惜しい。 この有り得ないプライバシーが危ぶまれるような問題が無ければ、凄く良い部屋なのに! この世に生み出された意味がよく分からない扉を恨めしげに見つめていると 「あ、試しに開けてみます?」 何言ってるんですかあなた!!
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