腕の傷

-1-

そんな祐樹が夕方に鳴った自宅のマンションのドアベルに対応して扉を開いた時に、思わず疑問符を頭に浮かべたのはとても自然な事だった。

扉の先には自分の母親とトラベルバック一つに、見慣れない何かがいたのだから。

見慣れない何かと言ったのはつまりは少女の事であるが、その黒い髪が異様に長く腰まであり、前髪は顔の殆どを覆ってしまっていてすぐに人とは判断できなかったからである。

さらには黒いサイズが体より一つ位大きい位のパーカーに黒めのジーンズ生地のホットパンツで、そこから伸びる細い脚が真っ白で細いのも判断を鈍らせた要因だったろう。

「え……」

祐樹はとりあえずそんなひらがなを発音してみた。しかし母親には聞こえはしなかったらしい。勝手に荷物と少女を玄関に押し込んできながら、何やらペラペラと異国語を話していた。

「いやぁ、あんたは多分初めて会うよね。遠い親戚の……なんつったっけ。はとこだったかひよこだったか。とりあえず親戚の有栖ちゃんね。あんためんどくさがりだから断られるかと思ったんだけど。一応これが有栖ちゃんの学校までの地図と……」

「はぁ。どうなってんの……」

祐樹は小声でそう呟くのが精一杯だった。