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どれくらい歩いただろう。
20分程だろうか。
他人との終始無言のウォーキングは少しツライものがある。
私はただぼんやりと夜空を眺めながら、促されるままに歩いていた。
あまりにも空が輝いている。
空気が透き通っている。
数えきれない程の星と、眩しすぎるくらいの月明かり。
月の周りを囲むプリズムに目が眩む。
そんな美しさに、我の身に起きている事実を忘れそうになる。
「…そんなに空が珍しいですか?」
その声はどこが馬鹿にしている様な気がして、空ばかり見つめていた自分がなんだか恥ずかしくなる。
でも…本当に珍しい。
「私の…私の住んでいる場所ではこんな綺麗な夜空は見れません」
俯きながら言う私に、男はなおも質問を続ける。
「どこの生まれなんですか?」
「東京です」
「とうきょう?」
東京を知らないのかと私は驚きを隠せない。
「あの…此処は日本ですよね?」
男が怪訝な表情で私を見た。
「そうですが…。あなた異人ではないのでしょう?何故そんな質問をするんですか?」
「いえ…あの…東京をご存知ないんですか?」
「…聞いたことないですね」
少し不機嫌そうに男は返答すれば、キュッと口をつむってしまった。
夢の中じゃ東京も通じないのか。
何故か私はそんな呑気なことを考えていた。
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