西条桐江の日常

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「ああ、見たところ内臓もいくつか足りない。お前も解ったと思うが、肉付きや骨格からして多分ガイシャは女だな。胸元を見てみろ」 玖辺はそう言うと遺体の胸部を指差した。 遺体の胸部には女性なら本来あるはずのものが無く、代わりに抉り取られた痛々しい痕跡と、どす黒い筋肉の繊維が垂れ下がっていた。胸部の千切り取られた肉の先端からは何かの粘液が滴り落ちている。 それを見て西条は呟いた。 「乳房が切り取られていますね……」 「美味いらしいからな。こういう事件では最後まで見つからない」 「それと、気がついていると思うが、このアルコールの臭い……何かわかるか?」 「多分これはラム酒でしょう」 「それも香りの強いヘビー・ラムを使っているようですね。通常のラムはここまで強い臭いがしませんから。調理用の物かもしれません」 「宗教的な意味やホシのメッセージというのもあるかもしれんな……」 「単に臭い消しという可能性もありますが、そういった事も考えられます」 そこまで言うと西条は遺体に手を合わせ、シートを元に戻した。 後は鑑識の仕事だ。自分は鑑識結果が上がってくるまで他の捜査をしなくてはならない。
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