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「イレーヌ」
「お呼びですか?レティシア様」
彼女は、呼べばどんなに離れていてもやってくる。もう慣れっこのはずなのに、毎度驚いてしまうのは自分の悪い癖だと思う。
五年くらい前にイレーヌがこの事を神経に悩んでたかも……。
イレーヌの烏羽〔からすば〕色の髪を見て気まずいことをついつい思い出す。
「どうかなさいましたか?」
「あ、ごめんなさい。えっと、私の膝掛けをどこに入れたか覚えてるかしら?なかなか見つからなくて」
「膝掛けはたしか、小物類と一緒に入れました。これです」
「教えてくれてありがとう、ごめんね」
「いえいえ」
ほとんど黒に見えるミッドナイトブルーの瞳が細められる。光のあたるところでようやく分かる青が神秘的で、初対面から大好きだ。
二人と屋敷のメイド達で荷物を片付ければ、あっという間に終わってしまった。レティシアの荷物は一般の王女や令嬢と比べれば圧倒的に少ない。それなりに着飾る必要があるのは、重々承知しているので、その最低限を持ってきたのだ。
「奥様、失礼ですが、どうして荷物が小さいのですか?」
さすがに気になったらしいテレーズは怪訝そうな顔をする。
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