2657人が本棚に入れています
本棚に追加
「アルフォンスに嫁ぐことになってたからよ。すぐに一緒に社交界へ行かなくなるだろうから、と思って」
我ながら、重苦しいことをよくここまで軽く言えたものだ。
所詮政略結婚、最初こそ並んで社交界へ行っても、すぐに自分は屋敷で待つことを選ぶつもりだった。冷めた考えだと自分でも思うが、いずれアルフォンスには好きな女性が出来ると思っていた。
昨日は、それが異常なまでに前倒しになっただけ。そう考えるしかない。でなければ、義務を放棄したことに苛立ちが納まらなくなりそうで怖かった。
「でもそれじゃ、不仲に思われるんじゃ……」
「ポーラっ!」
「あーっ!ごめんなさい、奥様!」
ポーラと呼ばれた、新しいレティシア付きの侍女は勢いよく頭を下げた。
テレーズとイレーヌ、もう二人の侍女―エイプリルとフィリス―は、ポーラを凝視している。
「いいのよ、本当のことだもの」
レティシアの返答にポーラは幾分安堵したみたいだ。しかし、テレーズから送られる厳しい教育者としての視線は変わらず強烈だ。
不意にテレーズはこちらを向く。
「ドレスはたくさん持ってきた方がよかったかも知れません」
「どうして?」
最初のコメントを投稿しよう!