捨てられた花嫁(5)

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 緊急事態だ。  ちょっと庭にでも行ってみようと思って、与えられた仮の自室から出てみたのだが、すっかり道に迷ってしまったらしく、部屋に戻ることも庭に行くことも出来なくなってしまった。  こんなことでイレーヌの遠耳を使わせたくない、というか何より情けなかった。この年で迷子になり、挙げ句侍女を呼んで自室に戻るなど恥ずかしすぎる。  右も左もわからない屋敷で一人になったのが馬鹿だったわ。  いまさら後悔しても仕方がない。とりあえず今右に行くか左に行くかを決めなくては。 「どうしたんですか?」  落ち着いた少年の声がして振り向くと、声の通り同い年くらいの少年が立っていた。今しがた何かの部屋から出てきたようだ。 「ええっと、その」  言えない。でもずっとここをさ迷うわけにもいかないのだ。 「迷子ですか?」  オブラートに一切包まれていない言葉が、ぐさりと音を立てて刺さった。 「あははは……」 「迷子ですね」  疑問から断定に変わってしまったことに、レティシアはガクリとうなだれる。 「どこに向かわれていたんですか?」 「庭に出てみたくて」 「こちらです」 「案内してくれるの?」
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