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緊急事態だ。
ちょっと庭にでも行ってみようと思って、与えられた仮の自室から出てみたのだが、すっかり道に迷ってしまったらしく、部屋に戻ることも庭に行くことも出来なくなってしまった。
こんなことでイレーヌの遠耳を使わせたくない、というか何より情けなかった。この年で迷子になり、挙げ句侍女を呼んで自室に戻るなど恥ずかしすぎる。
右も左もわからない屋敷で一人になったのが馬鹿だったわ。
いまさら後悔しても仕方がない。とりあえず今右に行くか左に行くかを決めなくては。
「どうしたんですか?」
落ち着いた少年の声がして振り向くと、声の通り同い年くらいの少年が立っていた。今しがた何かの部屋から出てきたようだ。
「ええっと、その」
言えない。でもずっとここをさ迷うわけにもいかないのだ。
「迷子ですか?」
オブラートに一切包まれていない言葉が、ぐさりと音を立てて刺さった。
「あははは……」
「迷子ですね」
疑問から断定に変わってしまったことに、レティシアはガクリとうなだれる。
「どこに向かわれていたんですか?」
「庭に出てみたくて」
「こちらです」
「案内してくれるの?」
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