捨てられた花嫁(5)

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 硬直したレティシアをよそに、レイヴンは立ち止まってこちらに向き直る。 「奥様は聞こえましたか?」  含みなんて感じさせない静かな問いに答えられない。含みがないから、はぐらかせないし、嘘をついてごまかすことも出来なかった。 「何してるんですか、レイヴンさん」  刺のある声が飛んだ。声音はそのまま持ち主の感情を表していて、ミッドナイトブルーの瞳には警戒心が刻み込まれている。 「王宮〔ブラックスワン〕から登城命令が。お着替えを」  簡潔に言って、イレーヌはレティシアの腕を珍しく強引に引いていった。慌てて振り替えるとレイヴンは早足で別の方向へ向かっていく。きっとジェラルドの身仕度だ。 「どうしたの?」 「いえ、強引に腕を引いてしまってすみませんでした」  イレーヌはレティシアに謝罪を述べて、ドレスの支度を始めた。  レイヴンと顔合わせの時に、何かあったのかもしれない。  他のポーラ、エイプリル、フィリスはイレーヌのぴりぴりした空気にあまり気付いていない。いや、気付いていながらあえて無視しているのだ。  三人が作り上げる朗らかな雰囲気を少しでも邪魔しないように、場の空気に溶け込むべく、レティシアは大きく息を吸った。
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