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人は少なからず別の顔を持っているものである。それが狂ったものなのか、冷たいものなのか。それは誰にも分からない。ことに、彼の顔は――
漆黒の城に同色の髪を持つ男と、対照的な髪を持つ女が足を踏み入れた。レティシアは片手で数える程度しか入ったことのない城だが、あまり好きな外観ではない。漆黒なのは血を隠すため、と昔から言われているからだ。レティシアの生まれ育った城とは対照的なそれは、まるで白〔レティシア〕を拒むかのようで、どこか申し訳なさに似たものを感じる。
レティシアとジェラルドは別の部屋に案内され、レティシアはジェラルドの義姉に呼ばれたため、彼女の部屋に向かった。
「失礼します」
「どうぞどうぞ~」
朗らかな声が聞こえ、中に入るとにこやかな女性が椅子に腰掛けていた。やわらかそうな明るい茶色の髪をゆるく結い上げていて、雰囲気にあっている。
彼女の名前はエレイン。ジェラルドの兄嫁にして、彼の従姉だ。
「ジェラルドってば、ずいぶん可愛いお嫁さん貰ったのね!」
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