黒白のメヌエット(1)

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 実母ではない、という面もあるが、何よりその性根だ。どこまでも歪みきったそれには嫌悪感を覚える。  かつて英雄王とたたえられたが、今は落ちぶれた父だ。早々に斬り捨てるかと思っていたが、キアラにはそれをしなかった。さっさと棄てればいいのに、とそのときばかりは思ったのを今でも鮮やかに覚えている。  それに昔からこの城は嫌いだ。黒の扉に銀の装飾。この城は「黒鳥城〔ブラックスワン〕」という名で、「鴉城」と呼ばれることもあり、その名の通り黒が基調になっている。そんな城がジェラルドは嫌いだった。陰気臭い、と思う。反対に、レティシアの祖国・アリスラーナ王国の方は「白鳥城」や「鳩城」と呼ばれ、白を基調としている。  一度訪れたことがあるが、本当に正反対の印象を受けた。  バルフォア国の黒は血を見せないため。かつて君臨した狂王の頃の名残なのだ。アリスラーナ王国の白は光の恩恵、つまり神の恩恵を表している。信仰心が強い国のため、清純の白を好む。国境の川一つ隔てただけでこうも違うのだ。  今もなお、この謁見の間には、満足気な視線と不満げな視線がジェラルドに対して入り乱れる。
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