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ジェラルドは顔の方向も変えずにさらりと言ってのける。
柱の隠し扉から顔を出したのは、昨日レティシアを捨て、駈け落ちした男だった。
「やぁ、昨日ぶりだね。もう戻ってきちゃったの?」
まぶしすぎて直視できないだろう、というくらいの笑みを向けてやれば、気まずそうに目をそらすアルフォンス。
「追っ手を放ったのはおまえだろう、ジェラルド」
呆れた声でいうセオドアにジェラルドは首をすくめてやり過ごした。当たり前だ。国同士の約束を反故にする王族など言語道断。それなりの処罰を受けてもらわねばならない。
さて、どう料理してあげようかな。
真っ黒な微笑を浮かべて、アルフォンスに一歩一歩歩み寄る。アルフォンスはそれと一緒におたおたと後退した。
ジェラルドは、サディストで独占欲が強い。自分のものを奪われるのを良しとしない。自分の守りたかったものを汚されるのも許しはしない。
「君はどうしてやろうかな」
「マーサには何もしないでやってくれ」
「それくらいの分別はついてるさ。女性を傷つける趣味はないからね、時と場合によりけりだけど」
最後の言葉にアルフォンスは真っ青になる。
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