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自分用の緑色の歯ブラシを手に取り歯を磨く。ブクブクと口をすすいで吐き出した時、玄関のインターホンが軽快に鳴った。
「はーい!」
タオルで口を拭いながらパタパタと走り、玄関を開ける。
「おっはー!楓」
ニコニコと笑う少女に、楓も笑みを浮かべた。
「おはよう!水帆!」
ほんの少しつり上がった目尻に浅黒い肌の彼女も楓と同じく真新しい制服に身を包んでいる。
「ちょっと待っててくれ!」と言ってドアを閉める。タオルを洗濯篭に放り込み、ブレザーをひっつかむと朝食を食べ終わった母に「水帆が来たから外いる!」と早口に告げて家を出た。
「今日からアタシ達も高校生ね~」
「うん、そうだな!」
廊下の手すりに体を預けながら談笑する2人。楓はチラリ、と真向かいの玄関を見た。
人が出てくる気配のない灰茶色のドアを確認すると、楓は視線を水帆に戻した。
「……日高貴士はもう行ったのかしらね?」
楓はビックリして目を見開いた。
「なに言って…――」
「バレバレなのよ。さっきアッチの玄関見てたでしょ?」
そう言って水帆が親指で指差した先は、ついさっき楓がチラリと見た玄関。楓は何も言えずに視線を水帆から逸らした。
アリスマンションは南北軸向きに2つの高層住棟が接近して建てられているツインコリダー型。2つの棟を繋ぐ渡り廊下にはエレベーター2機に階段2つがある。
2人は10階に住み、楓はエレベーターから遠い1番端の部屋で、水帆はその隣の部屋だ。
そして、水帆が言い、楓が気にしている日高貴士は、楓達とは別棟に住んでいて、楓達の場所からは玄関がよく見えた。
「ま、日高貴士の事だから?寝坊してるに決まってるわね!」
高らかに笑う水帆に顔は向けず、楓は手すりから下を覗いた。一階には棟と棟の間に小さな公園がある。そこの花壇に咲いている花が、降り注ぐ日の光を浴びてキラキラ輝いているように見えた。
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