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楓の心臓がドキリ、と高く跳ねる。
玄関から出てきたのは、平均よりも小柄な少年。150㎝の楓と大差ない。楓達と同じ制服を着ている。
玄関から出て来た短髪の少年を目にして、楓は思わず閉口してしまった。
「あ、日高貴士…」と呟いた水帆の声が聞こえたのか、はたまた偶然振り向いたのかは、楓には分からないが、バチリと楓は日高と目が合った。
眉間にしわを寄せ、眠そうな表情だったが、日高は楓に向かって片手を上げて手を小さくヒラヒラと振った。ギョッと慌てつつ、楓も手を大きく振り返す。
ドキドキと五月蝿い鼓動が鼓膜まで叩いて自分が今何をしているのかも分からない。
視界がぼやけるほど顔が熱い。
「日高貴士はもう居ないわよ?」
水帆の低い声に楓はハッとして振り続けた手を止めた。
慌てて後ろを振り向くと、微笑む愛美の表情がまず最初に見えた。その次はニヤリと笑う美和の表情。最後に隣に居る水帆を見ると、面白くない。といった表情をしている。
三者三様の表情に楓はさらに真っ赤になると、振り続けた手を隠すように頭を掻いて笑った。
「なんで、日高貴士?」
「なんでって……なにがだ?」
ふくれっ面の水帆は楓の問いには答えず、ムッツリと黙り込んでしまった。
楓は突然へそを曲げてしまった親友に困り果てて頭を掻いた―――すると、なんの前触れもなくなにかを閃くように、楓は今朝見た夢を思い出した。
「あ!そうだ!!今日、あの夢見たんだけど、…みんなも見たか?」
「あ、暗闇の夢?」
「見たわ見たわ!」
今までふくれっ面だった水帆の表情がケロリと明るいものに変わった。
「やっぱみんな見てんだね…」と不思議そうに美和が呟いた。
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