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桜木高等学校の校舎は少々広く、入り組んでいた。新入生が迷わないようにクラス表の紙には教室までの簡単な道順が描かれてあったため、楓達は迷うことなく4階の自分達のクラスに着いた。
教室の黒板には、大きな座席表が貼ってあった。楓の席は廊下側から2列目で、目の前には愛美、隣に水帆と3人固まったが、美和は窓側の席と遠い。
楓の後ろには、大地が座った。
荷物を置いた美和が自分の席から離れ、楓達の席まで来た。
「西中から来たのってわたし達と坂本くんと日高くん以外には居ないらしいよ?」
「あ~…ここ倍率高かったものね」
「うん、前期で合格できたのは奇跡だよね」
愛美の言葉に「俺と貴士も前期合格だよ」と大地が目を丸くしながら4人の会話に加わった。
「え、本当に!?」と美和。
「うん。本当に」と大地は朗らかに微笑んだ。
楓はチラリと窓際の席に座る日高を見た。眠そうに欠伸している。
その時、日高のすぐそばを何か黒い物が落ちた。
黒猫らしき影が真っ逆さまに落ちて行ったように見えた楓は、目を丸めた。
楓が居る教室は4階。
屋上から4階のベランダへ降りた訳ではなく、真っ逆さまに落ちていった。と楓には見えた。
ゾクリ、と背筋に走った予感に楓は立ち上がると、ベランダへと駆け寄った。背後で水帆が驚いたように楓の名を呼んだ。
ベランダへ続く窓を開けて外に出たが、そこにはもちろん黒猫の姿は見えない。楓は慌ててベランダから身を乗り出して真下を覗いた。
予想した黒猫の悲惨な姿はどこにもなく、赤レンガの地面が見えるだけだ。
右へ左へと視線を走らせたが、どこにも黒猫の姿は無い。ベランダに身を乗り出した姿勢のまま楓は「あれ~?」とボヤいた。
(おかしいな。黒猫が落ちてくのを確かに見たと思ったんだけどな…。……だけど、あの黒猫…なんか変だったな。背中に白い羽根があったような気がしたけど…――)
眉を寄せた――その時。
「わッ!?」
いきなり、後ろに引っ張り上げられた。グーンと一気に視界が高くなる。腹部を締め付ける何かを縋るように掴めば、太い大人の男の腕。
「わ、わわわっ!?」
突然誰かに後ろから抱え上げられて、驚きに声を上げる。
慌てて振り向けば、右目を前髪で隠しているような不思議な髪型をした暗い水色のサングラスをかけたイケメン。
よく知る男の顔に、楓は目を大きくした。
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