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入学式は、楓にとって苦手な行事の1つだ。眠くなる事はないが、活発な楓には適合しない。日高がカクン、カクン、と船を漕いでいるのが楓から見えた。
心配そうに大地がチラチラと船を漕ぐ日高を見ている。
「…日高くん、寝てるね」
「…おう」
愛美と2人でクスクスと笑う。水帆が2人の会話に加わりたくてウズウズしているのが楓から見えて、2人はほんの少し長く笑った。
式が終わると、他の1年生は帰りのホームルームだというのに、楓達のクラスは自己紹介中だ。
女子は慎次と長く居れると喜んでいるが、男子は早く帰りたそうだ。
「じゃ、次は井ノ上さん」
楓は水帆を見た。
「西中から来ました。井ノ上水帆です。闇倉慎次先生とは、小学生の頃からの付き合いなんでっす!よろしく!」
バチンッとウィンクした水帆に、女子が羨ましげな溜め息を吐いた。
順々に生徒が自己紹介をしていき、愛美の「春日愛美です。よろしくお願いします」という簡潔な自己紹介のあと、楓の番が来た。
「三枝楓だ。西中から来た!よろしくな!」
「はい、元気な挨拶なのは非常に素晴らしいけど、なるべくだったら敬語を使うように」と慎次に優しく窘められて楓は席に着いた。
日高の挨拶は愛美以上に短かく、美和は緊張しつつもなんとか自己紹介を終えた。
全員の自己紹介が終わると、明日の予定の確認だった。
「明日は教科書配布するから、大きな袋を持ってくるように。それと、君達1年生を受け持つそれぞれの教科の先生方との顔合わせもあるから。…それが終わったあとは、校舎の案内をするよ。部活見学は明後日までのお楽しみだね」
人差し指を口元に当ててニッコリと微笑んだ慎次に、女生徒が黄色い悲鳴を上げた。
「それじゃあ、気をつけて帰るように」
それだけ言ってサッサと教室を出て行った慎次を複数の女子が追っていった。チラリと美和を見ると、目にチラチラと嫉妬の火をくすぶらせている。それに苦笑していた楓の視界に、日高が誰かと話しているのが見えた。
確か自己紹介の時、可愛らしい少女だと思った早桜小鳥だ。
2人はなんだか楽しげに話している。グッと沈む気分に、楓は慌てて2人から視線を剥がした。
その瞬間、周りの音がかき消されるような耳鳴りが突然両耳を襲い、楓はたまらずに両手で耳を塞いだ。
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