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お互いに意志を瞳だけで確認し合うと、3匹は額を近付ける。2匹よりも体の大きいフーガは、上体を屈めて額を近付けた。
『――…忠誠を誓いし僕、魂の契約を果たせし汝の主を捜し求めん』
まるで何かに反響しているかのようなテトラの声がフーガとバルメールの耳に心地良く響く。
『物を映す鏡。音を拾う蝸牛。全てを感じし五感に忠実あれ、汝の主に近付きし時、心の琴線、魂の脈動。我らが魂に忠実あれ』
びゅうびゅう、と吹いていた風が、透明な壁に阻まれたかのようにテトラ達の元を吹き抜けられなくなった。
『捜しさ迷うた僕の名は3つ…テトラ』と言ったテトラに続き、フーガとバルメールも『スカル・フーガ』『バルメール』と自分の名を名乗った。
3匹の額にある楕円形の石が強く輝く。ヘリポートの航空障害灯が赤く明滅せずに光を強くしていく。
ジジジッ――と電気が焼き切れる音が限界を告げている。
『シュッツハイリガーの名の下に…!』
テトラが最後の言葉を紡いだその瞬間、額の石がいっそう強く光を放ち、電灯が限界を超えて「パンッ!」と破裂した。
風の行く手を阻んでいた透明な壁も破裂したように姿を消した。
明かりが消えた闇の中で、テトラ達の額にある石だけがキラキラと輝いている。
びゅうびゅう、と風がテトラ達の間を吹き抜けて行った。
「それで?ここは4月から入学なのであったな?」とフーガが口火を切った。
「あぁ…」と肯くテトラ。
バルメールは左手から分厚い紙の束を取り出すと「ここから近い高校は2つあるわね。先ずはどっちから見に行くのかしら?リーダー?」と言って器用にテトラに向かってウィンクした。
バルメールが持つ紙の束を覗き見る。
紙には[光輝学園]の情報と[桜木高等学校]の情報が書かれていた。
光輝学園がここから近いが、テトラは引き寄せられるように[桜木高等学校]の情報を目で追っていた。
桜ヶ丘の上に建つ校舎。この学校には不可思議に咲き誇る桜が1本だけあり、通称“妖怪桜”と言われている。そして、魔が籠もっている可能性がある桜として……――
「…桜木高等学校に行ってみるか」
テトラの言葉に2匹は肯いた。
電灯が消えた暗闇の中で、3匹の動物の姿が闇に溶け込むように消えた。
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