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「寧依、今の私は嘘なんかついていない……壮はまだこっちの世界にいる」
「ふざけないでって言ってるでしょ! じゃあ何、幽霊になった兄さんが今もどこかにいるって言うつもりなの⁉」
「ああ、その通りだ。だからお前の母親は自分のしてきた事を認め、こうしてお前を説得しに来ているんだよ」
「…………」
言うまでもないだろうが、こんな説明は一般常識から考えれば突拍子がなさすぎる戯言に聞こえちまうだろう。
だが俺も母親も一貫して嘘は何一つ述べていねぇ。
事実を並べ、現実を教え、真実を告げているだけである。
「杜志那のお母さん。焦る気持ちはわかりますが、どうかその辺で一旦引いてください。伊澤もいい加減にしろ、過度な刺激はあいつを追い込むだけだ。ここはどうにか時間を稼いで警察の到着を――」
ここまで傍観していたものの、支離滅裂で奇怪の極みかつ普通じゃねぇ根拠で妹をどうにかしようとする俺達に痺れを切らしたのか、八原先生は今一度制止させようとしてくる。
そんなやり方が有効なはずはねぇと、そう認識した上での行動だったのだ
ろう。
「もしかして……本当に……?」
しかしあまりにも脆弱で奇天烈な説得文句であるはずのそれも、彼女にはどうやら深く刺さる所があったようで。
何気なく漏らしたその独り言に俺達は発言も動きも再び止め、妹の方に視線と意識を集中させた。
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