01.見可者(ケンカシャ)

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   外は寒い。  冷気が身体を吹き抜けるたび、身震いするほど寒い。    そして、外は真っ暗だ。  街は闇に包まれ、空は星が瞬くのを視認できるほど、漆黒の空だ。    しかしこの交差点だけは、街の灯りによって昼間のように明るい。    街頭の灯りや、周りに建つビルの灯り。  それに、ここが賑やかなための明かり。    そのためにここは夜でも、昼間のように明るい。  車通りも人通りも多いこの交差点。    正方形をしたこの交差点。  その片隅で俺達は、信号待ちをしている。 「どうする悠二。このままゲーセンにでも寄ってくか?」 「あー……今月は金欠だから、いっても遊べねぇよ」  漫画とかゲームソフトを買ったりして、結構出費が(かさ)んだからな。 「それなら心配するな。一回くらいなら奢ってやるぞ」 「えっ、マジで!?」 「あぁ、マジだぞ」 「サンキュー! 今日の篤は、いつにも増して太っ腹だな」 「いやいや、これはお前へのご褒美みたいなものだよ」 「ご褒美?」 「あぁ。さっきまで頑張って居残りしていた、伊澤悠二という戦士へのご褒美だ」 「……ありがとな」 「良いって事よ。俺らの仲なんだから」  篤は屈託の無い笑みを浮かべてそう答える。  気前が良いのもそうだが、どんな人間にも分け隔てなく接するその人間性も、対照的な性格をしている俺みてぇな奴は見習わなくちゃならねぇ。  自分で言うのもなんだが、変に拗れている俺からすりゃ、篤なんかはこれ以上ないってくらいの聖人に思えちまう。 「しっかし、ここの信号は相変わらず(なげ)ぇよな~!」 「ん? あぁ、そうだな」  ここは何度も通っているから、もうあまり気にしなくなったが、それは言える。  この『羽上交差点』の信号はやたらと長い事で有名だ。  もうかれこれ五分くらい待っている。 「…………」  ふと、辺りを見回す。  スーツに身を包んだ、会社帰りだろう中年の男。    俺達と同じで、学校帰りだろう黒のブレザーを着た学生達。  仕事着ではなく、私服で信号待ちをしている人達。    みんなが俺達と同じ、信号待ちをしている。  ふと、耳を傾ける。    人々の、様々な内容の会話が入り混じり、それはまるでざわめき声のように聞こえる。  これは賑わいある場所での、特有のBGMだ。
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