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再度周辺に目をやる。
交差点の周りにはいくつもの白いビルが建っている。
どれも二、三階建てのもので、高層ビルとまでは言わないような高さのビルが、交差点を囲むようにいくつも建っている。
その一つ一つの窓は、暖かみのある黄色の明かりを灯している。
「…………っ」
――視界に入った。
俺達が信号待ちをしている横断歩道の向かい側に、珍しい子がいる。
長い金髪に、黒のコートを着た少女。
俺達とあまり変わらない背丈の少女。
両手をコートの中に入れ、信号待ちをしている。
金髪の少女など、所詮は漫画やゲームの世界だけにいる存在だと思っていた。
でもその存在は。
その人物は、現にあの場所にいる。
周りより少し目立って、あそこにいる。
「本当にいるんだなぁ……あんな子が……」
思わず呟く。
「誰がいるんだ?」
「ん、いや……あそこに金髪の女の子がいるんだよ」
「どこにいるんだ?」
「向こう側の真ん中辺りだよ」
少女のいる向こう側を指差す。
「……わかんねぇよ」
「あそこにいるだろ」
「だからわかんねぇって!」
「ん……じゃ良いよ」
あの人混みの中じゃ、結構目立ってると思うけどな。
「その金髪の女の子が、どうかしたのか?」
「あぁ。金髪の女の子ってのが、少し珍しく思えてな」
「……まぁ、珍しいと言えば珍しいな」
あの女の子。
何というか――やたら存在感があるというか。
金髪ってのは、人混みの中でもあんなにも目立つもんなのか。
「――――あれ?」
気のせいか。
今、あの女の子の顔を、通行人の腕が突き抜けたような気が……。
「悠二、行くぞ」
「あ、あぁ……っ」
気が付けば。
篤は信号待ちをしている人集りを抜け、一人で先を歩いている。
信号は赤のままなのに。
横断歩道を渡り掛けていた。
「篤、危ねぇぞ!」
「平気平気! あそこの信号が赤になれば、こっちの信号はその内青に変わるんだからよ!」
俺から見て右にある横断歩道の信号を、篤は後ろ向きで歩きながら指を差す。
その信号は篤の言う通り、赤だ。
今の状態で横断歩道を渡る。
それはつまり、先走っての横断だ。
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