01.見可者(ケンカシャ)

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「待てよ篤っ!」  篤に出遅れて、地を蹴る。  信号待ちをしている人混みを抜け、赤信号である横断歩道を渡り掛ける。  それと同時。  向かいにいる金髪の少女は俺達と同じく、まだ赤信号である横断歩道を渡り始める。  横断歩道を渡る。  一歩。  二歩。  三歩。  四歩。  五――。 「…………」  思いもしなかった。  いや――思えなかったという方が正しい。  これが、篤の動いている最後の姿になるなんてのは、想像も付かなかった。  想像も出来なかった。  何故ならそれは、いきなりすぎたからだ。  突然すぎる事だったからだ。  横断歩道の半ばまで歩いていた篤は。  突如として、強風と共に俺の前から消えた。 「えっ…………」  驚愕した。  目の前にいた人が突然消えるなんてのは、驚くに決まっている。  驚かずにはいられないに決まっている。  轟音と共に銀の壁が突然目の前に出来て、それが無くなると消えていたなんてのは、驚かずにはいられない。  俺の脚。  走り掛けていた脚が、やがて止まる。  止まると同時。  凄まじい衝突音が、交差点に(とどろ)く。  俺は自然と、衝突音のした方向を向く。 「…………っ」  一台の大型トラックが、数台の車と正面衝突をしていた。  お互いの前部はぺしゃんこに潰れ、止まってる。  そこには、信号待ちをしていた人々が寄っている。  そして――視界に入る。 「――!!」    そして――――理解する。  何が起きたのかを。  何があったのかを。  俺の前で起きた事が、何だったのかを。  篤は――トラックに()ねられた。  左車線から来たトラックと、交通事故を起こした。 「篤ぃぃぃぃぃっ!!」  ばらばらに壊れたギターケースの破片が、あちこちに散らばっている。  交差点の中央付近で力無く横たわっている篤に、俺は駆け寄る。  酷い有り様だった。  ギターケースに続き、篤の鞄や制服までもがぼろぼろだ。  恐らく衝突の際に、身体をアスファルトの地面に叩きつけた為だろう。  目は力無く閉じており、口や手足からは大量の血が流れ出ている。  紅く、水のような血を出している。  篤は、無残な姿だった。  
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