01.見可者(ケンカシャ)

14/54
前へ
/674ページ
次へ
「おい篤っ! 篤!」  返事はない。  その口は、閉じたまま。  その身体は、動かないまま。 「なぁおい! 返事してくれよ!」  こういう時って、どうすりゃば良いんだ?  心肺蘇生?  血を止める?  それとも、何か別の事をしなければいけない?  一体、どうすりゃ良いんだよ! 「……だ、誰か!」  本能的に。  誰かに助けを求める。  辺りを見回す。  最寄りの人に、助けを求める。 「救急車を呼んでくれ!」  側に歩み寄って来た人物に、助けを求める。  その人物。  先ほど、俺達の向かい側にいた人物。  黒いコートを着ている金髪の少女に、助けを求める。 「……う……うぅ……」  微かな呻き声。  少女から視線を離す。  篤に視線を戻す。 「篤! おい篤!」 「……悠二……か……」  蚊の鳴くような声と共に、篤の瞼が僅かに開く。 「俺……どうなったんだ?」 「事故にあったんだよ!」 「……そうか……」  短い沈黙を挟み、篤は再び口開く。 「なぁ……悠二。……俺…………死ぬのか?」 「――――!!」  聞こえた言葉。  それは、あってほしくない事。  なってほしくない事。 「何言ってんだよ!? そんなわけねぇだろ!」 「そう……だよな……。まだ……死ねねぇからな……」 「…………」 「まだ……果たせて……ねぇから……な」 「……っ」  留学は、篤の未来像。  叶えたい未来像。  ……気付く。 「何してるんだよ!? 早く救急車を――」 「見えるの?」  何もせず、ただ立っていた少女は開口した。  澄んだ声を発した。  そして少女の発する言葉は、俺の思考を混乱させる。 「貴方は――私が見えるの?」 「こんな時に何言ってんだ! それより救急し」 「質問に答えなさい」 「――――っ」  怒鳴っても変わらない口調に、少したじろぐ。  少女はずっと、無情の形相をしている。  暗色の瞳で、こっちを睨んでいる。 「当たり前だろ! 何馬鹿な事言ってんだよ!」 「…………」  それでもなお、少女は動かない。  動いていない。  金髪の少女は、ただ立ち尽くしている。
/674ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加