01.見可者(ケンカシャ)

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「……名前は?」 「え?」  変わらず佇んでいる少女は、また口を開いた。 「貴方達の名前は?」 「……俺は伊澤悠二(いざわ ゆうじ)」  焦る気持ちを抑えて、それに答えた。  そして、篤に視線を向ける。  酷苦の表情を浮かべている。 「こっちは篤――上坂篤(かみざか あつし)だ」  答えない代わりに。  いや、答えれないだろう篤に代わり、俺がその問いかけに答える。 「…………」  少女は返事をせず、こちらを見続ける。 「それより早く救急車を! このままだと篤が――」 「無駄よ」  少女が次に言う言葉は、俺を絶望へと陥れる。   「その人は、もうじき死ぬわ」 「…………っ!!」  その言葉は俺を、瞬時に逆上させる。 「何言ってんだお前! そんな事、冗談でも言うんじゃねぇよ!」 「冗談なんかじゃないわ」  声を荒らげ言った言葉は、少女に否定される。 「上坂篤は、もう死ぬのよ」 「……お前ぇ――」    その瞬間。  俺は少女に、理性を無くされる。  感情的に、言葉を発する。  怒り心頭に発し、憤然として立ち上がる。 「一体何回言えばわかるんだ! そんな事、言うもんじゃねぇだろ!」 「事実を言って、何が悪いというの?」 「事実なわけがねぇ! 篤が死ぬなんて事、あるわけねぇだろ!」 「…………」    根拠は無い。  でも。  篤が死ぬなんてのは、あるわけがない。  あってはほしくない事だから。  だから俺は、少女を否定をする。  少女は視線を落とす。  やがて視線を戻すと共に、ゆっくりと瞬きをして――――言う 「残念だけど、もう死んでしまったわ」 「……だからお前、そんな事言うなって」 「言葉を返すのなら、彼を見てから言ってほしいものね」 「――――っ」  俺の足下へと視線を向けながら、少女は言った。  喉にまで出掛かった言葉を抑え……視線を向ける。  そこには篤がいる。  力無く横たわっている。  酷い怪我を負った、上坂篤がいる。
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