01.見可者(ケンカシャ)

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「……もう……嫌だ……」  視界は真っ暗だ。  涙を抑えようと目を(つむ)っているから、視界は闇に包まれている。  その視界で嘆く。  その視界で――呟く。 「人が死ぬのは……もう嫌なんだよぉ……」  走馬灯のように頭を過ぎる人物。  それは鮮明に形を成すことなく、脳裏を過ぎる。  脳裏に現れては、直ぐに消え失せる。  それは、記憶の断片。  俺の記憶の一部。  あまり思い出したくはない、過去の記憶。 「私の言った事は、間違っていなかったでしょ?」 「…………っ」  その言葉を耳にする。  それと同時。  死の深い悲しみは、少女への怒りに変わる。  涙を止め、少女へと顔を向ける。 「お前ぇ……」  少女を睨にらむ。  少女は間違った事をしていない。  今起きた事を言っただけ。  起きる事実を言っただけ。  でも俺にとってそれは場違いな言葉。  無情過ぎる言葉。  怒りを生む言葉。 「…………」  少女は変えない。  表情を変えず、こちらに視線を向け続けている。  お互いがお互いを見続ける。  俺は視線を逸らさず、睨み続ける。  少女は感情の無い顔で、こちらを見続ける。  じっと長く。  沈黙の中で。  そして――――聞こえる。 「いってぇ……」  その声は、背後から聞こえた。 「――っ!」  刹那。  もはや絶望と思っていた事が覆る。  その言葉を聞いただけで、嬉しさという感情が込み上げる。 「あ、篤! お前生きて――――」  生きてたんだなという言葉を繋げるはずだ。  そして、歓喜という感情が湧くはずだった。  だが、それはこの状況によって止められる。  自然と止まってしまう。  それほどこれは、驚く事だ。  生き肝を抜くような事だ。  俺はこの状態に、思わず息を呑んだ。  息を呑まずにはいられなかった。 「あれ? 俺って死んだんじゃ……」  自分の手を見つめ、疑問を浮かべている篤。 「篤……お前……」 「んっ、どうした悠二? 顔が固まってるぞ」 「身体……どうなってんだよ?」 「? ……あれ?」  こんなのは、今まで見た事が無い。  あるはずが無い。  だってこれは、普通じゃ有り得ない事だ。  
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