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雲の少ない冬の空。
昼時を過ぎて、もう少しで夕暮れに差し掛かろうとする時間帯。
何百メートルとある鉄塔の頂点に立つのは――黒と金の少女。
鋭利な冷たさを持つ風は、その華奢な身体を何度も撫で回す。
その風は、絶え間なく吹き続ける。
そのため、腰まで伸びた稲穂のような金色の髪も。
胸元で留め、腕を通さず着ている黒のコートも、絶え間なくはためいている。
そのはためいているコートの間からは、滑らかな曲線を描いている鎖骨や、透き通るほどの白い肌をした脚。
コートと同じ黒色のハーフパンツが、垣間見えている。
少女の眼下に広がるのは、無数の建造物と小さなビル群。
更に、蟻のような人々の群れ。
少女はそれらを、暗色の瞳で眺め――。
「こっちでは、何か面白い事があるかしら?」
と、呟く。
「まぁ、どこも同じでしょうけど……」
少女はコートの内側から、両の手のひら程の黒い手帳を取り出す。
それを片手に持ち、胸先で開く。
そして手帳に書かれている数々の名前を、もう一方の手の指でゆっくりと辿っていく。
やがてページの最も左上に書かれている数名の名前を確認すると――閉じて内側へと収める。
「さて、行きましょう」
少女は、コートを着ているその背中に開いた穴から、奇妙な形の黒い羽を生やす。
そして――小さく言う。
「魂を導きに……」
少女は跳躍し、鉄塔から虚空へと飛び降りる。
一定高度まで下がり、再び上昇する。
そして背の羽を大きく羽ばたかせ、眼下に広がる景色へと飛んでいった。
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