01.見可者(ケンカシャ)

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   人の上半身が二つに別れるなんてのは、普通では有り得ない事なのだからだ。  篤の身体は――くっきりと二つに別れていた。  正確に言えば、腰の部分で上半身が二つに別れている。  変わらず横たわっている上半身と、起こした上半身の二つに別れている。  脚の方は一つなのに、上半身は二つという状態だ。  その起き上がった上半身も、横たわっている上半身と同じくぼろぼろの制服を着ている。  そして血も、流れたままだ。 「よっと!」  篤は答えを出さず。  ぼろぼろな容姿とは裏腹に、勢い良く立ち上がる。 「おい! 立って大丈夫なのか!?」 「んっ、あぁ。結構大丈夫みたいだ」  身体の随所を見ながら、篤は答えた。  篤は事故に遭った。  トラックに跳ねられた。  正直、死んだと思っていた。  でも。篤は生きている。  こうして立ち上がれるほど元気だ。  けどこんな事って……あるのか?   こんなに酷い怪我を負っているのに、不自然なほど元気だ。  なら、身体が勝手に治ったとでもいうのか?   「それよりこれは……俺なのか?」  不思議そうに。  篤は、地面に横たわっている自分の身体へと目を落とす。 「あ、あぁ。そう……なんじゃね?」  正直わからない。  横たわっているのが篤なのか。  こうして立っているのが篤なのか。  はたまた、どちらも篤なのか  それとも、どちらも篤じゃないのか。 「俺が幽体離脱みたいに、二人に別れたって事か?」 「いや――でも幽体離脱とかは、死んだ人とかしか出来ねぇんじゃ……」 「俺は――死んだのか?」 「……そうとも言えねぇだろ」 「じゃあどうなってんだよ?」 「…………」  わからない。  どう考えても、わからない。  考えても、確実な答えは出ない。  確実な答えは、出せない。 「無理もないわ」  唐突に。  今まで口を閉ざしていた少女は、口を開いた。 「霊魂が肉体から離れるなんていうのは、死ぬ時にしか見れないもの」 「あれ、君は?」 「霊魂の貴方に、答える義務なんて無いわ」 「……霊魂?」  そう言うと少女は、コートの内側から両手を出す。  続けて右手を、細い筒でも掴んでいるかのような形にする。  そのままそれを、黒いハーフパンツを履いている腰に当てる。  今度は左手を腰まで持って行き、右手の前の何もない空間を掴む。
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