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「無駄話はもう良いかしら?」
少女は口開く。
感情を入れず、さらりと言う。
「おいお前! 一体なんなんだよそれは!?」
篤の口調が、明らかに変わった。
「だから言ってるでしょう。私の死神の鎌――『鎮魂歌』って。ここまで説明したのだから、もう十分でしょ?」
「だからなんなんだよ! 『鎮魂歌』ってのは」
「……私の死神の鎌と、何度も言っているでしょう」
「じゃあこれはなんなんだよ! なんで手が消えてんだよ!?」
手の無い自分の腕を、篤は少女に突き出す。
「答えろよ!」
「…………」
相変わらず答えない。
少女は視線を逸らし、黙秘をする。
でも、篤は怒鳴る。
色をなして怒る。
「歯を食いしばりなさい」
「は?」
刹那。
少女は両手に剣を持ち直す。
「お前……何を――」
言い掛けた。
だがそれは、小さく言った少女の言葉と、次の行動によって遮断される。
躊躇無く、剣を横に振るう。
一条の閃光が、空間を貫く。
そして――――。
その剣は、立っている篤の身体に一線を刻んだ。
脇腹から胸の辺りにかけて、光の一線が刻まれる。
「……えっ」
篤は――なんの反応もしなかった。
絶叫の声も出さなかった。
身体が瞬時に光の粒子となって、俺の前から――――消えた。
一瞬の出来事だった。
少女の剣筋も、篤が消えるのも。
息つく間もなく速かった。
何があったかは、直ぐにわかった。
でもそれがどういう事なのかはわからねぇ。
その思考が頭の中を駆け巡る。
それ故の沈黙。
その長い沈黙を破ったのは、少女の発声。
「全く、手間を取らせないで欲しいものね」
振り切った剣を戻しながら、少女は言う。
「……っ!」
その言葉を期に。
俺の視界に篤は、一人だけになったと気付く。
その篤。
それは変わらず、屍のように横たわっている篤。
何の動きも無く。
力無く倒れている篤。
やがて、一つの疑問が生まれる。
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