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「おい……篤は?」
「彼ならもう、『死世界』へ行ったわ」
「『死世界』?」
「……あぁ、人間界では呼び方が違うらしいわね。『死世界』というのは、こっちで言うところの『あの世』よ」
篤はもう『死世界』へ行った?
呼び方が違う?
『死世界』は、こっちで言う『あの世』?
「この――篤は?」
「それはただの『抜け殻』――死体よ」
「それってどういう……」
「彼は完全に死んだという事よ。何をやってももう生き返りはしないわ」
「…………」
突然突き付けられる現実。
篤が死んだという現実。
生き返ったと思っていたけど、結局は死んでしまったという現実。
「あ……ああ……」
嗚咽が溢れる。
失せ掛けていた感情が戻ってくる。
悲しみという名の感情が、再発する。
「篤! おい!」
篤の傍らにしゃがみ込み、同じ様にまた身体を揺する。
……同じ様に、反応は無い。
「完全に死んだと言ったでしょう」
少女もまた同じ様に、感情無く言う。
「……おま――」
「でも安心して」
少女は下ろしていた剣を片手に持ち直す。 そして――宣告のように言う。
「貴方も同じ霊魂なのだから、また直ぐに『死世界』で会えるわ」
剣先を、少女に向き掛けていた俺の顔に向ける。
「お、おい! 何するつもりだ!?」
「何よ。今更驚く事じゃないでしょ? 貴方も彼と同じ霊魂なのだから、同じ様に昇華するのよ」
一方的に言われる。
『昇華する』などという新しい言葉も言われ、俺の思考は完璧に置き去りだ。
「……それじゃ」
顔に剣先を向けたまま、少女は両手に剣を持ち直す。
そのまま剣を後ろへ引き――突きの構えをする。
「さようなら」
視界には、迫る銀色の剣先。
普通ならここで、俺は避けようとするべきだ。
こんな見ず知らずの金髪の少女に、殺され掛けているからだ。
でも俺は避けなかった。
動かなかった。
死を覚悟したからじゃねぇ。
反射的に目を瞑ってしまったからだ。
目を瞑れば、視界は闇に成る。
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