01.見可者(ケンカシャ)

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   でもそれは同時に、死を待つだけの事となってしまう。  剣を避けるという事は『生』を意味する。  剣を避けないという事は『死』を意味する。  俺は短い十七年の人生の幕を、ここで降ろさざるをえないのだろうか。  そんな事も考え始めたりする。  でもどう考えても――もう遅い。  どう足掻こうが、もう手遅れ。  どう抗おうが、もう意味の無い事。  避けない俺を待つのは、死というものだけだ。  だから俺はそうするしかねぇし、すぐに来る死を待つしかねぇ。  それ以外には――。 「――――」  そう思っていたが――感じない。  剣が(くう)を切り裂く音は聞こえた。  それなのに――無い。  剣は俺を刺したはずなのに。  その痛みを受ける覚悟をしているのに、痛みが来ねぇ。  死ぬと思ったのに。  本気で死を決心しなければならないと思ったのに、その死が来ねぇ。  身体に剣が突き刺さっただろう現実を見たくないが、俺は恐る恐る目を開ける。 「えっ……」  驚愕する。  それはほとんど想像した通りの光景だった。  俺の身体に、剣が貫通している。  俺の胸を、少女の持っている剣が貫通している。  だが、その痛みが全くねぇ。  貫通したという感覚も、刺した事で出来る傷口も。  その傷口と化した箇所から血が出るという事も全くねぇ。  確かに剣は、俺を刺している。  何も無い空間を刺している。  剣に対する肉体的反応がねぇ。  剣は今、そのような状態だ。 「どうして…………くっ!」 「おい、止めろ!」  少女は俺が拒むのを無視して、何度も何度も俺を斬る。  幾度も幾度も、白い閃光を描かせる。  だがどうやっても俺は斬れねぇ。  何度やっても、身体は切り裂かれねぇ。 「どうして……」  やがて少女は、剣を振る腕を止める。  酷く驚いた表情で、息を荒くしながら言葉を発する。 「どうして……どうして昇華しないのよ……」 「……な、なんの事だ?」 「どうなっているの……?」  振るっていた剣を、だらりと降ろす。  少女は困惑している。  いや、もしかしたら焦っているに近いかもしれない。  俺が昇華しないとかで、こいつは明らかに混乱している。
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