01.見可者(ケンカシャ)

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 篤の死因は、頭の強打と傷口からの出血多量だった。  搬送先の病院で、そう言われた。  それを聞いたのは、篤の両親が病院に駆けつけてからだ。  俺は実際の事故現場にいたから、篤の死に対しては少しくらい耐える事が出来る。    けど、それを聞いた篤の両親は酷く悲しんでいた。  母親は泣き崩れ、父親も目頭を押さえていた。  無理もねぇはずだ。  突然自分の息子が死んだなんてのは、想像しがたい事だ。  俺も、篤が死ぬなんてのは思いもしなかった事だ。  まさか篤が……。  「…………」  篤の両親を気遣ってや、もう夜も遅いという事もあり、俺は帰宅をする事にした。 『鍼槙(はりまき)市民病院』の建物を背に、家路につく。  家の近くの停留所まで行くバスに乗る。  そして、バスに揺られる。  窓の外を流れる夜景は、まるで俺の沈んだ心情を表しているかのように、黒く、暗い夜景だ。    どうして篤は死んでしまったのだろうか。  どうして事故に遭わなければならなかったのだろうか。  どうして、篤なのだろうか。  日頃悪い行いをしているわけでもないし、天罰が下るような事もしていない。  ただ純粋に、音楽が好きな奴だ。  そんな奴が、事故で死ぬなんてのは思わなかった。  神様ってのは、そんな事もお構い無しに人を殺すのだろうか。  そんな理不尽な奴なのだろうか。 「…………」  バスを降りてからの家路も、冷たく暗い。  アスファルトの道路を踏む(たび)、脚には冷たい感覚が伝わってくる。  それは俺の中の悲しみという感情を、より心に刻む。  肌を吹き抜けるひんやりとした風も、俺の心と身体をより冷たくする。  哀しみの心を抱えながらも、俺は家路を行く。  やがて――――着く。  何の変哲もない、白を基調とした二階建ての一軒家。  鉄格子の門扉を開け、木製の玄関扉を開ける。  家の中も外と同様、かなり暗い。  明かりが点いていない上、空気も冷え切っている。  玄関の間取りは何とか見えるものの、やはり奥は暗くて見えねぇ。
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