01.見可者(ケンカシャ)

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   だがその中でも、一カ所だけ少し明るい場所がある。  それはリビングだ。  廊下沿いにあるリビングの扉のガラス部分から、電灯の強い光が照っているからだ。  電灯が点いているという事なら、誰かがいる。  考えられるのは一人だけ。  靴を脱ぎ、重い足取りで冷たい廊下を歩く。 「あ、お兄ちゃんお帰り。今日遅かったね」  扉を開けた直ぐ傍に、考えられた人がいる。  ソファーに座り、薄桃色の長袖パジャマに白いパーカーを羽織った姿で、雑誌を読んでいた。 「あ、あぁ……なんだ藍那(あいな)、まだ起きてたのか?」 「お兄ちゃんの後片付けとかしないといけないから……」  言いながら半身を捻り、こちらを向く。 「? どうしたの? そんな暗い顔して」 「ん……いや、何でもねぇよ」 「目が真っ赤なのに何でも無いはないよ。もしかして泣いたの?」  今一度、目を片手で擦る。 「……篤が」  記憶を呼び起こす。  悲劇とも言える出来事を、頭に描写する。 「篤って、いつも遊んでいるあの篤くん?」 「あぁ……」 「その篤くんがどうしたの?」 「…………死んだんだよ」 「……それ本当?」 「あぁ……。俺と一緒に帰っていて……その道中で、トラックに()ねられて……」  自然と、徐々に俯く。 「そうだったんだ。あの篤くんが……」  声の調子からして、藍那も動揺を隠せていない。  つい先日まで俺と一緒に遊んでいた奴が突然死んだなんてのは、さすがに動揺せざるをえないのだろう。 「…………」  やや長い沈黙を挟み、藍那は持っている雑誌を横に置き、ソファーから立ち上がる。 「お兄ちゃん」  風呂から出たばかりなのだろうか。  まだ湿っているように見える長い黒髪を揺らし、俺の正面に来る。
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