56人が本棚に入れています
本棚に追加
「篤くんが死んじゃったのは、確かにとても悲しい事だよね。だからって、いつまでもめげてちゃ駄目だよ、お兄ちゃん。自分の回りの人が死んじゃうっていう事の辛さは、私にだってわかるから……」
「藍那……」
「それにずっとそんな感じだと、死んじゃった篤くんにも悪いでしょ?」
その暗色の瞳で、俺の目を見つめる。
妹に慰められる俺ってのは、どことなく情けない。
けど。
それでも慰めてくれるっていうのは、正直安心する。
俺にとっては、冷たい心を暖めてくれるような感覚だ。
だからこそ、藍那の言葉は嬉しいと感じる事が出来る。
「悪いな、何か」
「良いよそんなの。私達は家族なんだから」
「…………っ」
俺達の関係は兄妹だ。
でも。
それは同時に、家族でもある。
例え二人の兄妹でも、家族に変わりはない。
「……そうだな」
少しだけど。
心が立ち直れた気がする。
「あっ、そうそうお兄ちゃん。一つ訊いて良い?」
「ん、何だ?」
「お兄ちゃんって――――いつ彼女が出来たの?」
「…………は?」
それは突然に。
なんの前触れも無く、持ち出される。
「何言ってんだお前。俺に彼女が出来た覚えはないぞ」
「えっ、そうなの!?」
「当たり前だ。彼氏がいるお前とは違うからな」
「そ、それじゃああの人は誰なの?」
「あの人?」
「『私は伊澤悠二の恋人です』って言って、さっきここに訪ねて来た人だよ!」
「誰だよそいつ……。俺は知らねぇぞ」
「私だって! ……お兄ちゃんには彼女がいたなんて事、知らなかったし……」
「いや、さっきも言ったが、俺に彼女はいないからな!」
「えっ!? あ、そ、そうなんだ……びっくりした……」
不自然にも安堵の息を漏らした藍那は、憂いの色を帯びていた雰囲気を拭うように声音を元に戻す。
「そ、それよりも何か、お兄ちゃんに大事な用があるんだって。お兄ちゃんの部屋で待っててもらってるから、早く行ってあげなよ」
「見ず知らずの奴を人の部屋にいれるなんて……お前も危ねぇな」
「その時はわからなかったんだよ! お兄ちゃんにとっても見ず知らずの人だなんて……。凄く美人だったから、本当にお兄ちゃんの彼女かと思ったし……」
申しわけなさそうに、視線を逸らす。
それは不覚にも、少し可愛いと思えた。
最初のコメントを投稿しよう!