01.見可者(ケンカシャ)

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「篤くんが死んじゃったのは、確かにとても悲しい事だよね。だからって、いつまでもめげてちゃ駄目だよ、お兄ちゃん。自分の回りの人が死んじゃうっていう事の辛さは、私にだってわかるから……」 「藍那……」 「それにずっとそんな感じだと、死んじゃった篤くんにも悪いでしょ?」  その暗色の瞳で、俺の目を見つめる。  妹に慰められる俺ってのは、どことなく情けない。  けど。  それでも慰めてくれるっていうのは、正直安心する。  俺にとっては、冷たい心を暖めてくれるような感覚だ。  だからこそ、藍那の言葉は嬉しいと感じる事が出来る。 「悪いな、何か」 「良いよそんなの。私達は家族なんだから」 「…………っ」  俺達の関係は兄妹だ。  でも。  それは同時に、家族でもある。  例え二人の兄妹でも、家族に変わりはない。 「……そうだな」  少しだけど。  心が立ち直れた気がする。 「あっ、そうそうお兄ちゃん。一つ訊いて良い?」 「ん、何だ?」 「お兄ちゃんって――――いつ彼女が出来たの?」 「…………は?」  それは突然に。  なんの前触れも無く、持ち出される。 「何言ってんだお前。俺に彼女が出来た覚えはないぞ」 「えっ、そうなの!?」 「当たり前だ。彼氏がいるお前とは違うからな」 「そ、それじゃああの人は誰なの?」 「あの人?」 「『私は伊澤悠二の恋人です』って言って、さっきここに訪ねて来た人だよ!」 「誰だよそいつ……。俺は知らねぇぞ」 「私だって! ……お兄ちゃんには彼女がいたなんて事、知らなかったし……」 「いや、さっきも言ったが、俺に彼女はいないからな!」 「えっ!? あ、そ、そうなんだ……びっくりした……」  不自然にも安堵の息を漏らした藍那は、憂いの色を帯びていた雰囲気を拭うように声音を元に戻す。 「そ、それよりも何か、お兄ちゃんに大事な用があるんだって。お兄ちゃんの部屋で待っててもらってるから、早く行ってあげなよ」 「見ず知らずの奴を人の部屋にいれるなんて……お前も危ねぇな」 「その時はわからなかったんだよ! お兄ちゃんにとっても見ず知らずの人だなんて……。凄く美人だったから、本当にお兄ちゃんの彼女かと思ったし……」  申しわけなさそうに、視線を逸らす。  それは不覚にも、少し可愛いと思えた。
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