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そいつの格好から風貌まで。
質素な部屋の雰囲気から、明らかに浮いているのだ。
「あぁ、やっと帰ってきたのね。私を待たせるなんて、貴方も良い度胸してるじゃない」
金髪で黒いコートを羽織っているそいつは、窓から照らす月明かりのみが明かりとなっているこの部屋で、かなり目立っている。
暗夜の中でその金色の髪は、月光を受けて色が映えている。
その映えている色は金色だが、普通の金色ではない。
とても神秘的な色で、酷く魅了させられる金色だ。
「お前……」
その人物は、本棚の前で壁に身体を預け、一冊の漫画を読んでいた。
そいつを俺は見た事がある。
いや、見た事があるというより、見て忘れるはずがない。
こいつを――篤が死ぬのを何もせず見ていた薄情な奴を。
助けを求めたのに、何もしてくれなかった奴を。
「なんでここに――」
「怒鳴らないで」
俺の言葉を遮ると、少女は片手で漫画を閉じ、近くの本棚へ入れる。
「貴方の居場所を突き止めるのなら、こうして貴方の家に行くのが最善だと思ったから来たのよ、伊澤悠二」
なんだこいつ。
篤が病院へ搬送される時に別れたのに。
俺の居場所を突き止めるため、家に来たなんて言って……。
「何の用だ?」
「貴方の事や上坂篤の事……用件は色々あるわ」
壁に身体を預けたまま、少女は淡々とそう言った。
「だから貴方に幾つか訊きたい事があるんだけど、良いかしら?」
「……」
言いたい事はこの数秒の間に脳内で山積み状態となっている。
だが相手は未知の存在――とりあえずこいつについての情報を得るために、その言い訳を聞いてみるとするか。
「沈黙は肯定と捉えさせてもらうわよ。それじゃあまず、根本的な質問からだけど……どうして貴方は私が見えるの?」
「どうしてって……そこにいるからだよ」
机の椅子に腰掛けながら、そう答える。
理由なんてねぇ。
そこにいるのだから見える。
それは自然な事だ。
「やっぱり普通じゃないわね、伊澤悠二」
「普通じゃない? なんでだよ?」
「私は見えないのよ。普通の人間には」
「…………」
また場違いの言葉を言っているのだろう。
そんな思考が、頭を過ぎる。
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