01.見可者(ケンカシャ)

30/54
前へ
/675ページ
次へ
 そいつの格好から風貌まで。  質素な部屋の雰囲気から、明らかに浮いているのだ。 「あぁ、やっと帰ってきたのね。私を待たせるなんて、貴方も良い度胸してるじゃない」  金髪で黒いコートを羽織っているそいつは、窓から照らす月明かりのみが明かりとなっているこの部屋で、かなり目立っている。  暗夜(あんや)の中でその金色の髪は、月光を受けて色が映えている。  その映えている色は金色だが、普通の金色ではない。  とても神秘的な色で、酷く魅了させられる金色だ。 「お前……」  その人物は、本棚の前で壁に身体を預け、一冊の漫画を読んでいた。  そいつを俺は見た事がある。    いや、見た事があるというより、見て忘れるはずがない。  こいつを――篤が死ぬのを何もせず見ていた薄情な奴を。  助けを求めたのに、何もしてくれなかった奴を。 「なんでここに――」 「怒鳴らないで」  俺の言葉を遮ると、少女は片手で漫画を閉じ、近くの本棚へ入れる。 「貴方の居場所を突き止めるのなら、こうして貴方の家に行くのが最善だと思ったから来たのよ、伊澤悠二」  なんだこいつ。  篤が病院へ搬送される時に別れたのに。  俺の居場所を突き止めるため、家に来たなんて言って……。 「何の用だ?」 「貴方の事や上坂篤の事……用件は色々あるわ」  壁に身体を預けたまま、少女は淡々とそう言った。 「だから貴方に幾つか訊きたい事があるんだけど、良いかしら?」 「……」    言いたい事はこの数秒の間に脳内で山積み状態となっている。  だが相手は未知の存在――とりあえずこいつについての情報を得るために、その言い訳を聞いてみるとするか。 「沈黙は肯定と捉えさせてもらうわよ。それじゃあまず、根本的な質問からだけど……どうして貴方は私が見えるの?」 「どうしてって……そこにいるからだよ」  机の椅子に腰掛けながら、そう答える。  理由なんてねぇ。  そこにいるのだから見える。  それは自然な事だ。 「やっぱり普通じゃないわね、伊澤悠二」 「普通じゃない? なんでだよ?」 「私は見えないのよ。普通の人間には」 「…………」  また場違いの言葉を言っているのだろう。  そんな思考が、頭を()ぎる。
/675ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加