01.見可者(ケンカシャ)

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「んん~っ――――はぁ……」  俺以外は誰もいない教室に声が響く。  長い時間座っていた疲れを和らげるかのように、椅子に座ったまま両手を上げ、伸びをする。  固まった筋肉が伸びて、心地良い感覚がする。 「……もうこんな時間か」  正面の黒板の上に掛けられている時計に視線を向けて呟く。   時計が示している時間は、五時四十九分。    十七時というのは、高校二年の俺にとってまだ遅くない時間帯。   しかしふと見た窓の外は既に真っ暗だ。    遠くにある街灯が物寂しく点いているように見えるほど、屋外はどっぷりと暗くなっている。  教室の蛍光灯のがまだ遥かに明るい。   「さて、と……」  下校時間はとっくに過ぎている。  そのせいかグラウンドや校内に人の気配は既に無く、辺りはこれでもかというくらい完全に静まり返っていた。    俺は窓側の一番後ろの席から立ち上がり、居残りに使った課題のプリントを鞄へとしまう。    そして――――唐突に。  閉まっていた教室の扉が、音を立てて開く。 「おっ」 「よっ!」  お互いが気さくに手を挙げる。 「なんだ悠仁、まだ残ってたのか?」  黒のブレザーを着崩した格好で、俺に歩み寄ってくる。   「ん、まぁな。これの提出期限、確か今日までだろ?」  鞄にしまい掛けた課題のプリントを、声の方へ掲げる。 「相変わらず真面目だなぁ、お前は。俺なんか、出す気は始めから更々(さらさら)ねぇぞ」 「俺はお前みたいな、『勉強しなくてもやっていける』ような人間じゃねぇからよ。嫌でも課題(こういうの)をやって、成績を保つしかねぇんだよ」  そんな頭だったら、俺だってわざわざ居残りしてねぇしな。  再びプリントを、鞄にしまう。 「いや、俺は別に頭が良いってわけじゃねぇよ」  首を左右に振る。  その度に、長い茶髪が揺れる。 「じゃあ何だ? 生まれ付きの才能か?」 「(ちげ)ぇよ」  鞄を締め掛けていた手を止める。  視線を、声の方へと向ける。 「単純に、『将来をどれだけ考えているか』だぞ」 「ふーん……」  あんまり意味はわかんねぇけど。  多分、『将来をどれだけ気にしているか』。  そんな感じなんだろうな。
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