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*プロローグ
―普段は人気のない街から少し外れた開発地区…
ビルやアウトレットモールなどの建設予定地でもあるその場所は、今はまだ整備もされず、草多く生えた野原が広がっていた。
そんな何もない中で、パトカーのサイレンが鳴り響く…
ささやかな防犯灯以上に光る車のライトや、赤色灯がその場を明るく照らしている。
その原因ともなる男は、二人の警察官に取り押さえられ、抵抗も虚しく草生える地面に伏せ倒されていた。
押さえ込まれた男の理不尽な怒号はサイレンの次に周囲に響き渡る。
その横には、小さな女の子が涙浮かべた瞳でその光景を見つめていた、ただ呆然と…
―何がどうなっているのか…
―どうしてこんな事になっているのか…
幼いその頭では理解が出来なかった。
目の前で地面に伏せられている男にいきなり連れて行かれ、それからは何が起きたのかという記憶などなく、あったとしても口で表現出来ぬほどの恐怖に心が支配されており、動く事も話す事も出来ない状態だった。
―女の子の短い黒髪が風に靡く…
バタンッ…
サイレンの音が止まり、パトカーへと押し込められたのと入れ替えに、勢いよく車のドアが閉まる音がその場に響く。
「ユウちゃん…!!」
女の子にとって聞き馴染みある声が自分を呼んでいるのが、何も考えられない頭でも分かった。
「…‥なっちゃん…」
車から降りてきた同じ年ぐらいの少女は、腰まである長い髪が乱れる事も気にせず、呆然としている女の子へと、心配する両親よりも先に走り、女の子を小さな腕でしっかりと抱き締めた。
女の子が安心するようにではない、自分が安心出来るように。
その女の子の存在を確かめるように…
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