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僕が“彼女”と出会い、そして別れてしまった世界は、どちらも蝉が忙しく鳴いていた夏の河川敷だった。
確か、黄昏時の、蒸し暑い日。
山の稜線が燃えるような夕日に照らされていて、その隙間から差し込むオレンジ色が、穏やかに流れる川の水面を優しく染め上げていた。
ぼうっと景色を眺めていると、彼女の弱々しい涙声が震えた。
『もう、お別れなの?』
後ろを振り向く。
『うん・・・・・・ごめんね。ぼく、とおくにひっこさなきゃならないんだ』
顔を俯かせ、淡いピンクのスカートを、ぎゅぅっと握りしめていた。
『会いにいっても、いい?』
上目遣いに僕を見上げた彼女は、眉を八の字に下げて尋ねた。
『また、うーちゃんに会いにいっても、いい?』
『すごくとおいから―――ちゃんはこれないよ』
『そんなにとおいのぉ?』
『うん、とおいよ』
きっとね、と申し訳なさそうに答えると、泣きそうな顔が、さらにくしゃっと歪む。
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