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いつになるのか、そもそもこの街に帰ってくるのかさえわからなかった。
だけど、目の前で震えている彼女を笑顔にさせる方法もまた、わからなかった。
だから―――
だから、小さな嘘をついた。
ポケットに手を入れる。
『それでね、このハンカチを預かってて? 帰ってきたら、返してもらうからさ!』
しわくちゃな水玉模様のハンカチを取り出し、涙でびしょびしょになった顔に押し付ける。
『ぼ、ほぉんぼに、ふぁえっへふるほ?』
『ははっ! 何いってるかわかんないよ!』
手を離すと、ぱっと顔を上げ、目を丸くして言った。
『ほんとうに、うーちゃん、かえってくるの!?』
笑顔だった。
僕が大好きな、花が咲くような、笑顔だった。
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