ずっと昔の回想 【彼女と僕と河川敷】

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『う、うん・・・・・・もちろんだよ! そのハンカチはめちゃくちゃ大事だから、絶対なくさないでね!』  嘘だ。  どうでもいい、お母さんに無理矢理もたされた安いハンカチ。  だけど、真っ白い歯をみせ笑う彼女は、まるでこの世で一番の宝物を授かったようで。  いとおしそうにハンカチを見つめ、ぱっと笑顔になる。 『やくそくだよ、うーちゃん。ぜったいかえってきてねっ!』  バンザイするように手を大きく振り上げ『ぜったい約束!』と、顔をくしゃくしゃにする彼女の笑顔。  その顔がみたくて。  でも、どこか申し訳なくて。  お別れの言葉とか、感謝の言葉とか。  言うべきことはいっぱいあったはずなのに、口が縫いつけられたように開かなくなっていた。  だから僕は。  僕は、サヨナラとかアリガトウの代わりに、小指を差し出した。
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