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ジリリリリリリリッ…──
「ッ……!!」
闇へと完全に身を沈めた瞬間、目覚まし時計の音で目が覚めた。異常なほどの汗が龍希の額に浮かび伝う。
やけにリアルな、気色の悪い夢に彼は体を起こして頭を抱える。断片的に映るのは札を張られた妖怪の姿、牢屋に閉じ込められた美しい狐の女。
「なんだ…、さっきの。…なんであんな…」
目覚めの悪さに酷い胸焼けを覚えた彼は、ベッドの傍に置いてある煙草に手を伸ばした。恐怖など感じてはいないはずなのに、無意識にライターを持つ手が震える。
彼自身が想像していた妖怪は、人を殺めたり驚かせたりと言うイメージがあった。なのにも関わらず、自分の脳裏に流れ込んだ記憶は明らか人間が妖怪を殺め、捕らえる姿。
非現実的な映像なのに他人事ではないような気がして、深々と紫煙を吐き出し頭を掻きむしる。
複雑だった、他人事ではないような気がする自分が、真に人間じゃないと訴えているようで。
だが、龍希はそんな考えを振り払うように激しく首を左右に振った。まだ吸いかけの煙草を灰皿に強く押し付け、登校の準備を始める。
「今日は、えらく早起きだねぇ。雪でも振るのかしら…」
「あっ…おはよ、ばあちゃん。」
着替えている最中に、白髪をふわりとカールさせた小さなお婆さんが、優しげな笑顔を向けていた。
彼女は龍希の祖母ではない、施設で一人孤立している龍希を見つけ子供のいないこの夫婦が、引き取ったのだ。
最初は全く話さなかった彼も今では笑い、楽しげになんでも話すようになった。龍希はこの夫婦を本当の祖父母のように、慕っているのだ。
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