12.終わりの章

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カルピスちゃんがタッパーにリンゴを入れてくれたので、僕はそれをかばんに詰め込んで家を出た。 今日は、前川と溝口さんに会う。 溝口さんが前川と連絡を取ってくれた。前川は二つ返事で承諾したらしい。それはそれで、ちょっと、吐き気がするんだけど。 前川が指定してきたのは、僕らが通った大学近くにある喫茶店だった。 家からそんなに遠くもない。かつてそうしたように、僕は大学までの道を歩く。 人の家の前に、大きなヒマワリが咲いていて、ああ、夏だな、と思ったりする。 蝉の声、青い空、当り前に夏だ。 当たり前すぎて、梓の声が聞こえないのがおかしいような気がしてしまう。 歩調を速めながら、僕は自嘲する。 聞こえないのが、当たり前なんだって。 僕がひきこもってる間に、景色はだいぶ変わってしまった。あそこにあった民家、ビルになってる。あそこはまだ山だったのに、駐車場になってる。
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