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「どうしてこうなってしまったのだろう……」
視界の端に垂れる黒髪へ視線を送ると、白いワンピースを着た少女は短くため息を漏らした。両腕を戒める手枷が重く、投げ出すように太腿の上に置いた手を持ち上げる気にもならない。少女が座る鉄椅子の足と左足が鎖で繋がれていた。
少女を閉じ込める狭い部屋に漂う空気はジメジメとしていて、不快感さえ滲む。高い位置に作られた小窓から注がれる光は少女には届くことがなく、薄闇が彼女を包んでいた。祈るように窓を見上げ、四角く切り取られた青空を見つめる。
空と同じ色の瞳が光を帯びて揺らめくと、ゆっくりと目蓋が二つの青を隠した。
城下町から聞こえてくる笑い声に耳を傾けると、僅かに微笑む。
「クローヴァ=フォリウム。時間だ」
部屋の扉がゆっくりと開き、鎧を身に纏った騎士が厳しい声で少女――クローヴァを呼んだ。クローヴァは真っ直ぐに騎士を見据えると立ち上がる。騎士が足枷を外すと乱雑にクローヴァの肩を突き飛ばした。
「ほら、きびきび歩け」
僅かによろけたクローヴァだったが倒れることはなく、扉の方へと歩いていく。足枷はもうないというのに、足取りは酷く重かった。
慰めるかのように小窓の外から鳥の囀りが聞こえてくるが、クローヴァは振り返ることなく前を向いて歩を進める。
石造の城に規則的に響く乾いた足音。天井や壁に反響して廊下中に広がっていた。しかしその音はクローヴァに認識されず、彼女の意識は数日前の海原へと戻る。
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