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まずいっ! 鼻水が垂れて来た。だが控室へ戻る余裕がない。どうする? えーい衣装の袖で拭いちまえっ! 下手で出番を待つ悪人役のキャスト達が、こっちを見て笑ってる。くそう。カッコ悪いな。ヒーローも花粉症には勝てないよ。
ミュージックスタート! 子供達が一斉にステージへ目を向けた。
先に悪人達がステージへ躍り出る。
「ひゃーっほおっ! 迷子の子供はどこだっ? さらって帰るぞーっ!」
「待てっ! そんなことはこの加速マンが許さないぞっ!」
「ややっ! きさまは鼻水マン! いや、加速マン! えーい、ジャマをするなっ!」
アイツめ、ワザと間違えて……。
「加速スイッチオン!」
僕がカードサイズの加速スイッチを高く掲げてボタンを押すと途端に悪人達の動きがスローモーションになった。
僕は悪人達にパンチを喰らわせ、キックを繰り出し、次々と倒して行った。鼻水マンなどと揶揄した木下君にはビンタをお見舞いしてやった。
「さあっ、もう大丈夫。でも迷子になると悪いヤツにさらわれるから気をつけようっ」
ヒーローの決めゼリフだ。
幼児がステージへ上がって来た。
僕を手招きし、僕が屈むとティッシュを出しながら彼は、こう言い放った。
「ハナミジュは、たんと拭こうね」
―了―
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