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妻の葬式が終わり自宅で、ぼんやりと喪に服していた時の事だ。
「これを預かっていました」
妻の勤務先の友人だったという女性の訪問を受け、手紙を受け取った。
《あなた、ごめんなさい。あたしは、最後まで、あなたに文句を言い続けて優しくしなかったわね。甘い顔を見せれば、あたしが死んだ時、あなたは悲しくて何も出来なくなってしまう。きっと、そうなってしまう。だから、わざと冷たくしたの。そうしないと、あなたは泣いてばかりで動けなくなってしまう。本当は、あなたに感謝してた。あたしの、どんな我がままにも一生懸命、応えてくれた。嬉しかったわ。結局あなたより先に逝くことになりそう。もう命の炎が長くないのが解るの。子供達を、お願いね。あたしは、いつだって空から見守ってる。寝る前に空を見てね。これからは毎晩、優しく、おやすみと言ってあげるからね。頑張るのよ。 淑子》
妻の懐かしい筆跡だった。堪えても涙が溢れた。
ああ……淑子。そんなことは判ってた。判ってたんだよ。だから淑子が恋しいんだ。
僕は夕空に呼びかけた。
「淑子……おやすみ。聞こえるか? おやすみ」
―了―
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