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「とー!!」
「ふぐっ!!」
起床から20分、未だ起き抜けの域を抜けない俺は、朝から苦悶の表情で冷え切った勾配を上っていた。
なんで日本は順調に四季を送っているんだろうか。地球温暖化とかで騒いでいるんだから、冬位はもう少し過ごしやすくなってくれてもいいんじゃないのか。
なんてことを心中グチグチと愚痴っていると、突然俺のマフラーが盛大な掛け声と共に引っ張られたのだ。
後ろに重心を傾けられた上に首まで絞められ自在活殺大バーゲンだ。
ちゃんと両方の端を引っ張っている辺りたちが悪い。引く手数多だ。
「なにしやがる!!」
振り返ると平然とした顔で両手の平を俺に見せてくる女子が居た。
ちっちゃなボブカットがコートに白いマフラーをしている。
「春日部~…俺に何の恨み遺恨悔恨苦情があって朝も早よから他殺に手を染めようとしてるんだぁあん?」
「日向、お早う。ところで人間はすべからく目にした事が全て真実とは言い難いと言うな」
「あ?」
突然あからさまなはぐらかしにも聞こえる話の腰の折り方をされたが、こいつはこういう奴なのだ。
分かり易く言えば、“黙っていればモテるのに”という残念な女子高生だ。
いや、本人がその自分を嫌いでないのなら他人がどうこう言うことでも無いのだが。
「で、何だって?目に見える物全てが真実じゃないって?」
素直に話の腰を折られるのどうかと思いはするが、こいつは話の主導権を決して渡さない。横取るには巧みな話術が必要で、残念ながら俺にはその才が無かったらしい。
ということで、こいつとの会話はすべからくこいつが主導権を握っている。
「そうだ。つまり日向は、今私がマフラーを引っ張った所を見た訳じゃないだろう?」
成程。何を言いたいかは分かった。
「つまりお前は、俺が見ても居ないのにお前を怒るのは不当だと言いたいんだな」
「よく分かっているじゃないか。流石は私の友だ。賞賛を贈るよ」
けったいな喋り方を朝からするもんじゃないな。授業を前に無駄な脳内カロリーの消費をしている。後で消費者センターにこいつの事を相談するとしよう。
少なくとも、俺は無表情から送られる賞賛に今のところ納得して授与出来ていないからな。
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