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「ママー、どこー? ママー? ねえー、ママーどこー?」
(ん? あれっ? 又この夢……?)
頭の中では判っている。
でも俺は、ママと呼んでいた幼かった頃の自分に戻っていた。
俺は寂しくなると、母の胸の中でスヤスヤ寝ている自分を探す夢を見る。
(それだけ辛いのかな?)
俺はそう思いながら、二段ベッドの片割れで目を覚ます。
それが常だった。
下に二つ引き出しの付いた、お子様用宮付き寝具。
それ以外何も置いてない殺風景な六畳の部屋。
此処が俺の城だ。
と言っても借家らしい。
昔、子供相手の塾だったと聞いている。
だからなのか?
壁の向こう側には物凄い空間が広がっていた。
それはゆうに教室二個分はあった。
さしずめ大会議室と言うような雰囲気だった。
でも詳しくは知らない。
何しろ母は忙しくて、四六時中家には居なかった。
そんな訳で、俺の質問もないがしろにされて来た。
本当に良くわからないんだ。
だから……
独り寂しくお留守番。
ひたすら母を待ちわびながら。
でも大丈夫なんだ。
だって俺、何時も夢の中で母に抱かれて甘えていたから。
それをやりたいばっかりにこの夢を見ているんだ。
寂しくて寂しくて……
知らない内に母の影を追っていた。
あの白い世界の中を……
無我夢中で……
その時に見たんだよ。
母がこのベッドの上で、俺を胸に抱いてあやしながら寝かしつけている姿を。
母の愛を感じた。
母の辛さを感じた。
だから耐えなければいけないと思ったんだ。
やっぱり寂しいよ……
そして辛いよ…
母は仕事ばかりで……
俺は一人きり。
でも……
それでも耐えて来られた。
母の愛に支えられて……
母の胸に抱かれて眠る……
子供に戻って……
あの夢の中の優しい母に甘えて……
内開きのドアー。
フローリングの床。
ベッドの脇の壁側に、明かり取りと通気のための小窓が二つにある。
それぞれに、カフェカーテンが突っ張り棒に掛かっていた。
その下の僅かな隙間から見えるのは、雑木林とその手前にある自転車置き場。
其処には通学用のスポーツタイプと母用のママチャリが置いてあった。
でもおかしいんだ。
ママチャリがあっても母が居ない……
そんなことばかりだったんだ。
でも一応、母の在宅率の目安にしてはいた。
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