モーツァルトの時代

3/7
前へ
/9ページ
次へ
喫茶店の窓際の席で、僕は小さく舌打ちをした。カウンターにドカッと腰を下ろしたダブルスーツを着たトドのようなおっさんがひどく目障りなのである。 店には「アイネクライネナハトムジーク」が軽快に流れ、僕はさっき購入したモーツァルト作曲のオペラ「コシ・ファン・トゥッテ」のヴォーカルスコアとにらめっこしている。 今度、フェルランドの役をやるのである。役柄の説明は省こう。長くなるから。 この電話帳のような楽譜は、一万円と高額だが、その分コピー機のサイズに合わないことに四苦八苦する手間も省けるというものだ。 こんな清々しい気分のなか、ハゲ散らかしたおっさんがブルーマウンテンをスビズビ音を立ててすすっていることがひどく燗に障るのだ。 「まったく、最近の大人どもは…。」クラシックに耳を傾けられないようなおっさんは小汚ない居酒屋で安チューハイでもすすっておけばいい。 ブルーマウンテンを飲む金があるのか。癪である。僕はこれを一杯注文するために三日間はカップラーメン生活だというのに…。 「昔に生きた人間がそんなに偉いのかよ?」 下品で図々しい団塊の世代の人間を見るといつもこうした感情が芽生えてくる。 変に気難しくて、プライドが高くて、都合が悪くなるとシカトしてごまかす。そんな大人どもが大嫌いだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加