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「窮屈な思いをさせてしまい、すみません」
障子をあけたのは家主である、正一郎であった。
「正一郎さん!気にしないでください。晋作たちが勝手を言ったんだから」
ふわりと笑う由南に、正一郎はお茶と団子を差し出した。
「わざわざありがとうございます」
それを受け取ると、由南はため息をついた。
「大丈夫かなぁ。稔麿」
由南の心配の種はもっぱら稔麿の事であった。
「キレたりしなきゃいいんだけど」
何しろ血の気の多い奇兵隊幹部たち。
訓練をしているところを視察すると言ったって、ただでは済まない事くらい、わかっていた。
「大丈夫ですよ、由南さん」
正一郎が苦笑いすると、由南も同じように返した。
「白石様!ここにおられましたか!」
勢いよく飛びこんできたのは、廻船問屋の水夫であった。
「どうかしたのですか?」
「奇兵隊の方々が・・・!」
水夫の焦った顔を見て、由南はやったか、と小さく呟いた。
「正一郎さん、私みんなのところに行きます」
「しかし・・・」
正一郎は引きとめようとしたが、由南はそれを聞かず、本邸を飛び出していった。
「・・・血の気が多いのは、由南さんも同じですね。私も出向きますから、ここをよろしくお願いします」
正一郎も水夫に告げると、着物を正し、奇兵隊の屯所の方へ向って言った。
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