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晋作や稔麿が辰義を手厚くもてなし、案内しているころ、玄瑞や九一は辰義の子息ー由南の兄にあたる松本守義とともに奇兵隊の隊士たちが生活しているところへと足を踏み入れていた。
「こちらが客間でございます」
「ふーん。なかなか立派ですね」
守義は武士の割には砕けた物言いをしており、きょろきょろとあたりを見回していた。
「ああ、久坂殿は藩医を務められているほどの腕利きの医者とお聞きしましたが?」
守義から向けられた視線が玄瑞のそれと交差する。
守義の使命は隊士ー幹部の目利きであった。
「いえ、藩医は兄が務めております。私などではとても務まりませんよ」
笑顔でかわす玄瑞を横目で九一は見ながらさすがと思っていた。
この玄瑞という男は弁の立つ男。
喋らせるにはもってこいの男なのだ。
己らの師、松陰も妹の文を嫁がせているほどである。
「そういえば、あなた方は由南をご存じですね?」
客間に入り、静かに談笑をしていたのち、いきなり守義はそう切り出した。
有無など言わせぬ眼光で。
「…知っていますがそれが?」
玄瑞も負けじと笑顔で返し、客間は一瞬にして凍りついたのだった。
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