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「いえね、我が愚妹がご迷惑をおかけしているようなのでね」
「とんでもない。彼女にはこちらが世話になっているぐらいです」
冷戦が客間で行われている中、屯所の中を見回った辰義たちの足音が聞こえてきた。
「…続きは父上とお伺いいたしましょう」
守義はそう言うとにこりと笑って見せた。
ーこの男、玄瑞より食えないな。
九一は静かに考えながら、緊迫した空気の中にいた。
「ああ、玄瑞。終わったのか?」
すらりと開けられた襖の向こうにいたのは晋作たち一行であった。
「ええ、終わりました。辰義様、お疲れでしょう、今お茶を出しますが故」
「よい。さて、守義、どうであった?」
玄瑞のことなどいないかのように扱い、息子に鋭い視線を投げかけ辰義は腰を下ろした。
「上々です。由南はここにいる」
守義が由南の名前を出した瞬間、それまで黙っていた四人の表情が硬くなった。
「ほう。あの小娘は帰らぬと思えばこのような所におったか。恥知らずもいいとこ」
辰義は心配するわけでもなく、忌々しそうに言葉を吐きだした。
「恥知らず、ですか?」
玄瑞が言葉をつなげ聞きなおすと辰義は一つうなずいて見せた。
「女子でありながら剣がやりたい、学がほしいなどというものがどこにおる?」
あれは我が一族末代までの恥だ
そう辰義が言った瞬間、静かに空気が変わった。
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