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「追いかけんで、舞!」
既に走り出す態勢をとっていた渚が、顔だけを舞に向け呼び掛ける。
「……私は関係無い……」
「何ゆーてんねん!親友やろ!!」
否定への固執が舞の歩みを止めている。
「だからそれは、昔の話で……もう私と詩織は……関係無いんだよ!」
「はぁ!? 関係あるとか無いとか、それこそ関係無いやろ!! そんな事で助けへんなんて間違ってる!!」
「今更、詩織と関わりたくない!! 助けたところで、詩織は私に助けて欲しくなかったって言うに決まってる!」
否定し続けた今、助けたところで反対に否定されるだろうという考えに固執してしまう。
「それに渚は私たちのこと何も知らないくせに、余計な事言ってこないで!」
「二人の事なんか知らん! 現に今、ウチらの目の前で誰であろうと人がさらわれたんやで! 舞は詩織やから助けたくないんちゃうか?」
「………………」
「詩織やなかったらすぐに追いかけてたんちゃうか?」
「……渚はそうするだろうけど、私は――」
「…もうええ。ウチ1人でも追いかける。喋ってる時間がもったいない」
渚はそう言って、十字路を車が向かった方へ走りだした。
――私は……。
立ち尽くす舞を批判するように風が強く当たる。
――私は……私はッ!
舞の気持ちが揺らぐ。
心の奥底にある本能が、詩織と離れてから一切出さなかった詩織への想いが、強く“助けろ”と語りかける。
――私は……助ける。
――詩織を助ける!
何を迷っていたのか。
いままでの事を忘れ、今持っている気持ちのみで舞は詩織を見捨てようとしていた。
大切にしていた思い出も一緒に。
――追いかけよう。
今まで辛く当たっていた風が舞の決断を後押しするように追い風となり、舞は渚の方へと走り始めた。
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